研究成果
骨転移がんの可視化に有効な新しいPETプローブの開発
生体機能評価研究チームの田原強 研究員、尾上浩隆 チームリーダーらの研究グループは、抗HIV薬として知られるZidovudine (AZT) を炭素の放射性同位体11Cで標識したPETプローブを開発し、骨転移がんの可視化に有効であることを明らかにしました。
がんは時間経過とともに全身へ転移し広がる可能性が高く、発見が遅れると治療が困難になります。したがって、がんをできるだけ早期に発見し治療を開始することが非常に重要です。PETによる画像診断はがんの早期発見に期待されており、DNA合成が盛んながん細胞が、DNAの元になる核酸を正常細胞より多く取り込む性質を利用したPETプローブの開発が進められています。核酸の一つであるチミジンの誘導体AZTは抗HIV薬として知られていますが、もともとは製薬会社で抗がん剤として開発された薬でした。研究グループはこのようなAZT開発の経緯に注目し、AZTを11Cで標識したPETプローブによりがんが検出できるか検討しました。
CLSTのイメージング化学研究グループの張周恩 研究員らは、これまでにAZTと同じチミジン誘導体に対する 新たな11C-標識法を確立し、とくにHIV薬である stavudine (d4T)の11C-標識化 ([11C]d4T)にも成功しています*。そこで本研究では、[11C]d4Tと[11C]AZTの がん細胞への集積につい て調べました(図1)。担癌マウスを用いたPET実験の結果、[11C]d4Tについてはがん細胞への集積が認められませんでしたが、[11C]AZTはがん細胞に強く集積することが判りました(図2)。また非常に興味深いことに、[11C]AZTは骨や腸管など細胞増殖が盛んな部位への集積が低いことも分かりました。
これまでの核酸系PETプローブは、細胞増殖が盛んな正常組織にも集積してしまう弱点がありました。今回開発した[11C]AZTはこれまでのチミジン誘導体と異なり、骨をはじめとした正常な増殖性組織への集積が低いことから、骨転移したがんの可視化・早期発見にも利用できる可能性があり、今後、臨床での応用が期待できます。
本研究成果は英国オンライン科学雑誌『EJNMMI Research』(9月4日付け)に掲載されました。
原論文情報:
Tahara T, Zhang Z, Ohno M, Hirao Y, Hosaka N, Doi H, Suzuki M, Onoe H.
“A novel 11C-labeled thymidine analog, [11C]AZT, for tumor imaging by positron emission tomography”
EJNMMI Research 2015, 5:45. doi: 10.1186/s13550-015-0124-0. Epub 2015 Sep 4.
*)こちらの成果については、以下の論文をご覧ください。
Zhang Z, Doi H, Koyama H, Watanabe Y, Suzuki M.
"Efficient syntheses of [¹¹C]zidovudine and its analogs by convenient one-pot palladium(0)-copper(I) co-mediated rapid C-[¹¹C]methylation. "
J Labelled Comp Radiopharm. 2014, 57(8):540-9.